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報道はどうあるべきか?(1)【朝日の社長は、極右の恫喝によって謝罪したのか?】【国民が総政治化するとき】ほか

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 【朝日の社長は、極右の恫喝によって謝罪したのか?】

 「従軍慰安婦論争」は、昨年9月に朝日が誤報を認めて、社長自らが記者会見によって謝罪した日にターニングポイントを迎えた。その動きを捉えて一部の海外メディアが「危険な日本の右翼が戦史を書き換えさせようとしている」という、まるで朝日が極右に恫喝されて謝罪させられたかのような論調のニュースも流した。
 こういった記事はいかようにも読めるものの、言論弾圧のような状況はなかったはずだ。朝日は、抗議に耐えられなかったというよりも、最終的には「検証」の力、すなわち「事実」に負けた。屈したというよりも自供だった。

 自称元軍人の吉田清治の証言に疑問を持った秦郁彦(元千葉大教授)は、1991年から92年に済州島に行き調査した。その結果、少なくとも吉田証言の根拠の一つが崩落した。これが学術的な検証の出発点だった。地道な研究は無力な場合もあるにせよ、底知れぬ力もある。報道もそうあってほしい。

 ここで、秦の立ち位置、慰安婦の強制性、日本の持つ歴史観、研究の与える影響などについて踏み込むつもりはない。ただ当時の地道な「調査」が、自称元軍人の証言の信憑性を崩した。その「調査」を「取材」と言い換えれば、それが記事を書くための仕事の範疇だった可能性もある。

【国民が総政治化するとき】
 
 朝日の謝罪会見以後、バッシングが吹き荒れた。その勢いはやがて、朝日批判にとどまらず、異論を持つ者への中傷、他国民を汚い言葉で罵倒するようなインターネットの書き込みにも繋がってきた。売国奴、鬼畜などの言葉を使う人の意見は、必然的に説得力を失う。
 知性と品位を疑うような憎悪の応酬は、戦争加害者とされる日本人の不利にも働き、やがて世界的な日本バッシングにもつながる。「目的は手段を正当化しない」というコンセンサスが必要だ。

 故山本七平は、自著で、日本には西欧型ファシズムは存在しなかったとしながらも、日本人の政治意識が約15年周期の「総政治化―非政治化」の循環性を持っているという、ユニークな観察をしていた。60年代の安保闘争のころもそうだったという。
 戦前の例では、昭和5年ごろから胎動があり、やがて政治に関心のない人たちが突如として関心を持ち始め、国民が「総政治化」して戦争に突入していった、と山本は見ていた。

【岡田力に考えさせられた、報道のプロとは】

 前述の朝日謝罪の少し前に、『報道記者の原点』という、朝日の現役記者の岡田力が書いた本を出版した。原稿の大半はすでに完成したものだった。

 産経から朝日に移籍した岡田の経歴に触れ、記事が書きにくくはないかなどと岡田に尋ねた。面食らった感じだったが、岡田は、産経でも朝日でも書くことはまったく変わらない、むしろ媒体によって書く内容を変えるような記者はだめだ、と言い切った。
 別の日には、中国の、国民弾圧の一つの「法輪功の迫害」や「死刑囚の臓器販売の実態」なども、もっときちんと書けないのか、と酔った勢いでからんだ。印象に残ったのは、「機会があり二重三重に裏が取れるならばチャレンジしたい」という言葉だった。

 岡田の原稿には、積み上げられてきた仕事と仕事観が織り込まれていた。読み終えて、報道のプロとは何かを何度か考えさせられ、出版を決めた。
 この本には出口のないような論議や自社組織への批判はない。一方で自己の体験は詳しく、岡田の一記者としての猛省もある。

 いま、「朝日記者の書いた本です」と言うだけで、怪訝そうな顔をする人もいる。だが「報道はどうあるべきか」に持論のある人には、一度手にとってもらいたい本だ。

 
本文敬称略

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●書籍タイトル/「報道記者の原点」
●著者/岡田力(朝日新聞社 前記者教育担当部長)
●ページ数/288ページ
●発売発行/リーダーズノート 
●四六版並製 
●978-4903722504
●定価1512円

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『どこかに「毒」がなくてはつまらない。どこかに「蜜」がなくては諭しめない。どこかに「骨」がなくては意味がない』それらを自らのレーゾンデートルと位置付け、精力的に出版活動を行っている出版社。

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