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この本を、もしジャーナリストの上杉隆が読んだら...

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 この本を、もしジャーナリストの上杉隆が読んだら...

 例えばの話だが、ジャーナリストの上杉隆が本書を読んだら、どんな感想を持つだろうか。僕は本書の編集中に、ふとそんなことを考えた。

 だから日本の新聞記者はダメなんだと一蹴する。そうも思った。
  上杉隆と同様に、「日本の新聞記者やテレビ記者らは、エリート意識ばかりで、世界中からバカにされている」と主張し、「記者クラブこそが日本の報道を地に堕ちさせている」と牙を剥いているライターらが、僕の周囲にも少なからずいる。彼らはある意味正しい。独占的に当局情報を垂れ流す大手メディアは、権力のお抱え機関としても機能しており、「ぬるさ」も併せ持っている。

 しかし現役の朝日新聞の記者である著者の岡田力は、次のような話も、ひょうひょうと悪びれもせずに書く。

 岡田が記者になった2年目、群馬県の通信局に勤務していたとき、沼田警察署の記者クラブは、毎日新聞と東京新聞の長老の記者らが仕切っていた。ところが岡田は、沼田署の次長に気に入られるようになり、それとなくガサ入れ情報や町長告発のネタをもらえるようになる。

 ある日、岡田の特ダネに怒った他社の長老記者たちが、その沼田署の次長を取り囲み「岡田君だけに告発の話をしただろう」と詰め寄っている。

 すると次長は、「書いていいなんて言ってないじゃないか。こっちはまさか書くとは思わないじゃないか」と岡田に矛先を向け、怒鳴りつける。

 岡田は反論する。
「何を言っているんですか? 僕は記者ですよ。ニュースをつかんだら書くのは当たり前じゃないですか。それをいちいち『書きます』と断らなきゃいけないのですか?」
  他社の長老記者らの前で、議論はどんどんエスカレートしていく。
 「書くなら書くというのは当然だろう」
 「じゃあ、警察にとって都合の悪いことを書く場合でも許可がいるのですか? 言ったら許可しますか?」
 「そういうことを話しているのではない。人としての仁義の話だ」

 毎日の長老の記者が、「分かったよ、もういいよ」と言って、その場はおさまった。つまり沼田署の次長が、他の新聞社の手前、アドリブで仕込んだ芝居に岡田がうまく乗って警察と岡田の「蜜月」の疑念を払拭した。そんな話である。

 筋金入りのフリーのジャーナリストらは、笑うに笑えないかも知れないが、僕にとっては、こういった類の話も面白かった。岡田に言わせれば、当局取材では、この次長のような「すべてを知っている1人」をつかまえることが、極意なのだそうである。
 
 取材の現場は、常に駆け引きの上に成り立っている。当局と慣れ合い、利用し合い、ときに歯向かって記事を書くというバランスが、新人記者にとってのハードルとなる。しかもコンプライアンスや仁義といったものを意識しながら、「きれいごと」では済まない現場で、勝ち抜かねばならない。
 
 もっとも、岡田に聞いてみると、「記者クラブに反対」なのだと言う。
「記者を甘やかせている。記者クラブを利用して楽をしていけば、大手のメディアは滅ぶでしょう。信用を落としたのも、記者クラブの記者たちが手を抜いてきたから。だから記者クラブにいる記者には『手を抜くな』と言いたい」

 巷には、現場にも行かず、あやうい情報で記事を書く手抜き記者やライターもおり、それが、ときおり問題になる。その一方で丹念に足をつかって事件を紐解いていく岡田のようなタイプの記者もいる。不祥事を抱えている側にとっては、実は前者のような記者はそれほど怖くはない。だが、後者のような記者には睨まれたくないものである。岡田のような、一見、温厚そうなタイプにこそ気をつけたいと思わせる事例の数々が、また興味深い。
 
 本書には、記者になった1年目の体験として、取材していた相手が自殺してしまうという話が収められている。

 岡田はそのときのことを、「死に追いやったのは自分ではないか。少なくとも取材のとき、相手の気持ちなんてまったく考えていなかった。事故を記事にした手柄で舞い上がっていた」と振り返り、当時の葛藤を書き綴っている。

 「記者として、人間として失格なのではないかと思いました」
 
 この一行を目にしたとき、僕は、あえてこのことを、いま彼が書くことの意味を感じた。

 
敬称略

 文責/木村浩一郎

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岡田力/朝日新聞長野総局長。
産経新聞入社、リクルート事件、警視庁捜査1課担当で連続幼女誘拐殺人事件などを取材。朝日新聞入社、警視庁公安担当としてオウム真理教事件を取材。名古屋報道センターデスク、東京本社地域報道兼社会グループデスク、ジャーナリスト学校記者教育担当部長を経て現職。

  

   

●書籍タイトル/「報道記者の原点」
●著者/岡田力(朝日新聞社 前記者教育担当部長)
●ページ数/288ページ
●発売発行/リーダーズノート 
●四六版並製 
●978-4903722504
●定価1512円

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