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定年は人生の終わりではない

終わった人

 昨日(2018年3月31日)当欄で紹介した『定年入門』をノベライズ化したような小説が本書『終わった人』(講談社文庫)である。大手銀行の子会社の専務で定年を迎えた田代壮介(63)が主人公だ。著者の内館牧子さんのもとには「自分がモデルではないか」という読者カードが多数寄せられたというから、定年後の男性の悩みや問題を相当リアルに描いたということだろう。

 壮介は東北・岩手の名門高校から東大法学部を出て銀行へ。最年少で支店長になったのが自慢のエリートだった。定年を迎えてからはスポーツジムへ行ったり、カルチャーセンターへ行ったり、無聊をかこっている。ハローワーク経由の求人に応募すると、中小企業には立派過ぎる経歴だと断られる。よくありがちなエピソードが前半は散りばめられている。

 後半、ある出会いから運命の歯車が回り始める。読者としては、はらはらしながら応援するしかない。ストーリーはどんでん返しの連続だ。ときおり定年経験者にとって、ドキッとするような言葉が出てくる。「仕事を離れて、スーツにふさわしい息をしていない男には、スーツは似合わなくなるのよ」「故郷に帰れば、再起できそうだって思ってるなら甘い」「朝の居酒屋は定年したオヤジのサロンだよ」

 ところで妻の千草は東京のお嬢様育ちだが、40代で美容師となり、壮介が退職後はヘアサロンを開業したやり手だ。二人の距離感はどんどん開き、「離婚」ならぬ「卒婚」でフィナーレを迎える。

 リアリティーを追求しながらも、どこかに男のロマンが感じられる作品なのか、東映で映画化(中田秀夫監督)され、舘ひろし、黒木瞳が出演、6月9日に公開される。15年に単行本として刊行されている。

  • 書名 終わった人
  • 監修・編集・著者名内館牧子 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年3月15日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数文庫判・540ページ
  • ISBN9784062938761
 

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